まず、今回の場合、AがBに対して賃貸借契約の保証金返還債権(「甲債権」という)を有していて、甲債権の保全のために、B所有の不動産に抵当権を設定し、登記しています(乙区2番抵当権)。
そして、C銀行がAに対して銀行取引に基づく債権(「乙債権」という)を有していて、乙債権の保全のために、Aは「甲債権」を質入れしています(民法362条1項「債権質」。同条2項及び361条により398条の2が準用されるため、債権の「根」質も可)。
すると、C銀行の有する質権の効力は、質入れされた「甲債権」だけでなく、抵当権の附従性により、甲債権を保全するためにB所有不動産に設定された抵当権にも及びます。
仮にBがAに甲債権を弁済して抵当権が消滅したとしても、Bはその消滅をCに対抗することはできません(Cは乙区2番付記2号で抵当債権の質入れを登記し、対抗要件を備えているため)。よって、甲債権について、BからCに直接弁済させることとし、BがCに弁済したときにはその範囲でAのBに対する債権も消滅することとなります。
これは、債権質の効力(質権者による債権の直接取立て。民法366条1項)です。通常、AとC銀行との間で債権根質権設定契約を締結する際に、AとC銀行は、Bに対して、「根質権設定承諾依頼書兼承諾書」を差入れますが、そこに、債権質の効力(今回であれば、「Bは、保証金の返還事由が生じたときおよび返還の時期が到来した場合には、この保証金を債権者(C銀行)に返還すること」も記載されています。
C銀行が、抵当権付きの甲債権に債権質を設定することで、C銀行は、抵当権(=B所有不動産からの優先回収権)も付従して手に入れることになります。
これが、実際にどんな意味を持つかというと、仮にAが期限にC銀行に対して「乙債権」を弁済しなかったときには、C銀行は質権の実行として抵当権を実行して、不動産の競売代金から「乙債権」を回収することができます(ただし、乙債権の弁済期が甲債権より早く到来する場合には、C銀行は、甲債権の弁済期の経過以降でなければ競売申立てはできません)。
今回は、C銀行が根質権を解除しました。そのため、なすべき登記としては、登記権利者をA、登記義務者をC銀行として、「2番付記1号抵当権の債権根質入抹消」登記を行うこととなります。
C銀行は、物件を担保にとっているわけではなく、あくまでAの持つ抵当権付き債権を担保にとっています。そのため、今回の抹消登記の登記権利者は、物件所有者Bではなく、Aであることに注意が必要です。
今回の土地について
順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日 | 原因 | 権利者その他の事項 |
1 | 所有権移転 | 所有者B |
順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日 | 原因 | 権利者その他の事項 |
1 | 賃借権設定 | 賃借権者A | ||
2
付記1号 |
抵当権設定 | 債務者B
抵当権者A |
||
2番抵当権の債権根質入 | 債務者A
根質権者 C銀行 |
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