抵当権者に合併が生じた場合の抵当権抹消登記手続きについて
抵当権抹消登記の相談で来所された甲さん。
登記情報を確認すると、甲さんが所有する土地にはいくつか抵当権がついています。
乙区
1番 | 抵当権設定 平成12年1月10日受付第○号 債権額 金1000万円 債務者 甲 抵当権者 株式会社A銀行 |
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2番 | 抵当権設定 平成16年11月21日受付第○号 債権額 金2000万円 債務者 甲 抵当権者 株式会社A銀行 |
3番 | 抵当権設定 平成21年4月22日受付第○号 債権額 金3000万円 債務者 甲 抵当権者 株式会社AB銀行 |
4番 | 抵当権設定 平成22年6月3日受付第○号 債権額 金1500万円 債務者 甲 抵当権者 株式会社C銀行 |
調べてみると、A銀行は、B銀行に合併されてAB銀行となり、AB銀行はC銀行に商号変更していることがわかりました。
1番、2番、3番の抵当権はすべて弁済されています。
それぞれの抵当権について、どのように抹消登記を申請すればよいのでしょうか?
1番抵当権について
- 甲さんによれば、1番抵当権の被担保債権は、平成19年11月26日に債務者甲によって弁済され、1番抵当権はこの時点で消滅しています。
- しかし、1の抹消登記未了のうちに、1番抵当権者であるA銀行は、平成21年3月25日にB銀行(現商号はC銀行)に吸収合併されました。したがって、1番抵当権の抹消登記申請時である現在において、登記義務者であるA銀行は存在していません。
- ここで注意すべきは、合併による存続会社であるC銀行には、1番抵当権自体が承継されたわけではないという点です。合併前に既に被担保債権は弁済され、実体法上消滅していたのですから、存続会社Cが承継しているのは、消滅会社Aが負っていた「抹消登記義務」だけということになります。
⇒以上より、1番抵当権について申請すべき登記は、所有権登記名義人である甲と、A銀行の抹消登記義務を合併により承継したC銀行とが共同して、抹消登記を申請すべきこととなります。このとき、登記義務者の記載として「A銀行承継会社C銀行」とする点に注意が必要です。
2番抵当権について
- 2番抵当権の被担保債権は、平成21年6月9日に弁済されており、合併が生じた平成21年3月25日から弁済の日までは、2番抵当権はAB銀行(現商号はC銀行)に帰属していたことになります。
⇒そのため、まず、合併を原因としてA銀行からC銀行への抵当権移転登記をしたあと、弁済を原因として2番抵当権抹消登記を申請すべきこととなります。抵当権移転登記の申請人は「抵当権者(被合併会社 A銀行) C銀行」と記載することとなります。また、その後の2番抵当権抹消登記の申請人は「権利者 甲」「義務者 C銀行」の共同申請です。
3番抵当権について
- 3番抵当権の登記名義人はAB銀行ですが、これはC銀行と同一法人であり、商号が現在のものと一致していないだけです。
- 登記義務者の名称が登記記録と合致しないときは、原則として登記名義人名称変更登記をすべきですが、所有権以外の権利の抹消の登記及び仮登記の抹消の登記については、登記名義人の名称に変更があっても、その変更があったことを証する情報を提供すれば、登記名義人名称変更の登記を省略して、直ちに抹消登記を申請して差し支えないとされています(昭和28年12月17日民甲2407号)。
⇒したがって、3番抵当権については、変更を証する書面(C銀行の履歴事項全部証明書など、商号変更の過程がわかる書面)を提供して、ただちに3番抵当権抹消登記を申請すればよいことになります。
※なお、仮に、2番抵当権・3番抵当権の弁済年月日がいずれも平成21年6月9日で同じであるならば、2番・3番抵当権の抹消登記は、同一の不動産における複数の権利に関する登記であり、その登記の目的は「抵当権抹消」、登記原因および日付は「平成21年6月9日弁済」というように同一であるため、不動産規則第35条9号の一括申請の要件を満たすので、一の申請情報によって2番、3番抵当権の抹消登記を申請することが可能となります。