相続登記の依頼で弊所を訪れたAさん。
遺産分割協議の結果、被相続人Bさん(Aさんの父)の不動産を単独で取得することになりました。
持参された課税明細書をもとに、弊所で登記情報を取得してみると、Aさんにまったく心当たりのない抵当権がついています。
原因 大正10年11月26日設定
債権額 金50円
利息 年1割
抵当権者 C
Bさんの他の相続人(Aさんの母ら)に聞いてみても、誰もCさんに心当たりはありません。
相続登記の依頼を受ける際、債権額を数十円とする明治や大正時代の抵当権がついたままの物件を見かけることがあります。相続人である依頼者にはまったく心当たりのない抵当権です。
このような抵当権は、被担保債権がすでに完済されて消滅していると推測できます。ただ、やはり、所有権の移転や抵当権の設定に比べ、担保権の抹消登記については、債権者も債務者も権利意識はかなり低いと考えられます。債権全部の弁済で抵当権が消滅すればよく、その抹消登記は新たな権利関係が発生しない限り急がないからだと考えられます。その結果として担保権の登記が長年放置されてしまうようです。
しかし、実体法上、抵当権が消滅しても、登記記録から当然に抹消されるわけではありません。登記記録から抹消するためには抵当権抹消登記を申請する必要があります。
通常、抵当権の抹消登記は、抵当権者を登記義務者、設定者(所有者)を登記権利者として、共同申請により行います。
しかし、上記事例のように、抵当権の抹消原因が事実上発生しているにもかかわらず、登記義務者が行方不明のため共同申請による登記手続きができず、抵当権を抹消できないとなると、登記権利者が不利益をうけます。
そこで、不動産登記法は、以下のような特例を設けて登記権利者による単独での抵当権抹消手続きを行えるようにしています。
登記義務者が抹消登記手続きに協力しない場合には、判決によって登記権利者のみで登記の単独申請をすることもできますが(不登法63条1項)、それ以外にも、次の場合には、抵当権抹消登記の登記権利者が、単独で抵当権抹消登記を申請することができます。
なお、登記義務者の所在不明(所在が知れない)とは、担保権登記名義人の現在の所在も死亡の有無も不明の場合をいいます。
例えば、登記名義人が死亡したことは判明しているが、その相続関係が不明な場合も含まれ、相続人が数名である場合において、その一部の者だけが所在不明であるときも含まれます。
また、所在不明の登記義務者には法人も含まれます。
登記原因証明情報として、抵当権者の死亡又は解散を証する戸籍謄本、登録事項証明書等を添付します。
登記原因証明情報として、除権決定があったことを証する書面を添付します。
登記原因証明情報として、債権証書並びに被担保債権及び最後の2年分の利息その他の定期金の完全な弁済があったことを証する書面を添付します。
登記原因証明情報として、被担保債権の弁済期を証する書面、弁済期から20年を経過した後に当該被担保債権、その利息及び債務不履行により生じた損害の全額に相当する金銭が供託されたことを証する書面を添付します。
今回の事例では、まず、相続登記をしてBさんからAさんに所有権を移転し、その後、Aさんの単独申請による抵当権の抹消登記を申請します。
4の場合に該当するため、抵当権者の登記上の住所地の供託所に、被担保債権、弁済期日から供託日までの利息・遅延損害金の全額を弁済供託することが必要となります。債権額につき現在の貨幣価値に合わせる必要はありません。弁済供託後、法務局に休眠担保権抹消登記を申請します。
休眠担保権抹消登記の申請の際に納付する登録免許税は、不動産1個につき1,000円です。
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